大阪高等裁判所 昭和52年(ネ)1261号 判決 1978年1月31日
控訴人・原告 伊藤忠商事株式会社 外一名
訴訟代理人 河島徳太郎 外二名
被控訴人・被告 株式会社トーメン・更生会社常陸紡績株式会社更生管財人 高沢嘉昭
訴訟代理人 松浦武 外三名
主文
本件控訴はいずれもこれを棄却する。
控訴費用は、控訴人らの負担とする。
事実
控訴人らは、「原判決を取消す。本件を大阪地方裁判所に差戻す。」との判決を求め、被控訴人らは、主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上法律上の主張は、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
理由
当裁判所も控訴人らの訴えは不適法としてこれを却下すべきものと考える。その理由は、次に訂正するほか原判決理由のとおりであるから、これを引用する。
(一) 原判決一三枚目表八行目「の帰属者では」を「を行使する権限を有し」と改め、同一一行目から一三行目までを削る。
(二) 原判決一四枚目表六行目冒頭から一五枚目表九行目「いうほかはない。」までを削る。
(三) 原判決一五枚目裏二行目および三行目「このことからも更生手続の性格上異議権が債権者代位権にしたしまない証左である。」を削る。
(四) 原判決一五枚目裏四行目(ホ)を(ロ)と改める。
(五) 原判決一五枚目裏一二行目と一三行目を次のとおりに改める。
「(2) 以上の次第で、当裁判所は、およそ会社更生法上更生債権者の異議権が債権者代位に親しむか否かという問題についての判断はさておき、会社更生法上の更生管財人の権限の行使に限り、これは債権者代位に親しまないものと考える。更生管財人は、裁判所により選任せられ、裁判所の監督の下に会社更生の目的を達成するのに最も有効適切な万策を考案しつつ更生会社を管理し更生手続を進めなければならないのであるから、そのためには広汎な裁量権限を必要とし、第三者によつてこの権限の行使につき制約を受けてはならないのである。たとえば債権者代位の目的として最も一般的なものであるところの更生会社が第三者に対して有する債権の行使について例をとつて見ても、その存在もしくは態様において債務者に争いがある場合は、訴訟によりその確定に至るまで長時間をかけてその完全回収を計るか、あるいは示談によりその一部ではあるが早期回収を計るか、そのいずれの方策を採用するかは更生会社の実情や更生手続の進行と睨み合せた上で判断すべき高度の裁量を要する事柄である。しかるに、この場合、更生債権者が債権者代位権を行使して当該債権の取立訴訟を提起することを許すとすれば、その限りにおいて更生管財人はその債権に対して前記の裁量を働かせる余地がなくなり、会社更生の目的がこれにより阻害せられる虞が出てくるのである。およそ会社が会社更生法の適用を受けるに至つた場合には、更生債権者のほとんどすべてが債権者代位権行使の条件を充たしているであらうことをも顧みなければならない。会社更生法は、更生債権者のためだけでなく、株主、会社従業員等すべての利害関係人のために会社更生の目的を達成するように制定せられた法律であり、更生管財人は、会社更生法五三条によりそのために必要な広汎な権限を専有せしめられたのであるから、更生債権者は、その自己の利益擁護のために民法四二三条により附与せられた権限はその前に譲歩を余儀なくされ、会社更生法五三条によりその行使を封ぜられたものと解釈するのが至当である。そうであれば、更生管財人が他の更生会社における更生債権及び更生担保権調査期日において、更生債権者及び更生担保権者としてなすべき異議権の行使も、これが自己の更生会社における更生管財人としての権限の行使に当る以上、これに対する債権者代位は許されないものといわなければならない。よつて更生会社阪本紡績株式会社に対する債権者である控訴会社らは、右会社の更生管財人榊原正毅が更生会社常陸紡績株式会社の更生債権及び更生担保権調査期日において更生債権者及び更生担保権者として行使し得る異議権を債権者代位権に基き行使することはできない。」
以上のように控訴会社からの訴はいずれも不適法として却下すべきであり、これと同趣旨の原判決は正当であるから、本件控訴は理由がない。よつて、本件控訴はいずれも棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 坂井芳雄 判事 乾達彦 判事 富沢達)